だって好きなんだもん「第8回・独りボケ独りツッコミ」
新しい会社に勤めだしてから早いもので4週間が過ぎようとしている。歓送迎会などの公式飲み会が続き、酒好きの私としては嬉しい限り!などと喜んだのが間違いの始まりだった。お酒を目の前にするとついついエンジン全開になるお笑い系の私は、どうもヤツらの格好の餌食となってしまったらしい。非公式に催される飲み会で、私本人への連絡も承諾もなく勝手にメンバーとして登録されているという事態が次々発生。
「アコちゃん、来週の○×飲み会に行くんだって?」
「え?知らないよ。聞いてないもん。」
「メール来なかった?アコちゃん「参加」のほうに名前が載ってたよ。」
「・・・・。」
最初のうちは「仕方ないな~ウヒヒっ」なんて思っていたけど、さすがにこの頃は体力と財力の限界を感じ、「コイツらと対等に付き合うのは止めておこう・・・。」と、心に誓う今日この頃である。
しかし、断ったにもかかわらず来週の飲み会のメンバーにチャッカリ登録されている今日この頃でもあるのだった。「ロクに仕事は覚えてないが、酒量と態度だけは10年選手」私のいない席では、そう囁かれているに違いない。
最近は東西線を使って通勤しているのだが、とにかく遅れる。乱れる。苦しい。痛い。殺人列車。西船橋から日本橋まで昼間なら22分程で着くのに、朝は最低でも35分掛かる。憎き東西線は「これが当たり前さっ」と言わんばかりに毎朝必ず遅延する。肝っ玉が小さく心配性でもある私は、遅れる電車の中で定時に間に合うかどうかドキドキするのがどうも苦手なものだから、早起きして早い時間の電車に乗らざるを得ないのだ。しかし私の最大のウィークポイントは早起きが出来ないことでもある。(どないやねん!)毎朝の睡魔との死闘格闘乱闘は、それだけで10円ハゲや胃潰瘍レベルのストレスとなるのだ。
東西線が遅延する原因は、東葉高速線が乗り入れて更に乗降客が増えたからではないかと勝手に解釈している。間違いだったら申し訳ない。でもそうに違いない。乗車率は400%?みたいな混雑で、いったい何度「うっ、死ぬ・・・」と思ったことか。西船橋で乗り込む時に軽く潰され、浦安では完全にプレス機にかけられ、東陽町に着いた途端、竜巻で遥か遠い土地まで飛ばされる。これじゃぁ「二日酔いで出勤」なんて暢気なことはできるはずもない。やっと茅場町で「座れる!」と喜んでも次は日本橋。乗り換えじゃん・・・。
ラッシュアワーの混雑は人の心を荒ませる。あの世界の中で「イイ人」を演じるのはかなり難しいだろう。生きるか死ぬかのサバイバルゲーム。肋骨一本折れたくらいなら「軽傷で良かったね。」みたいな世界。あのゲームに参加する限りは、肉体的苦痛が無くなる事は有り得ないのでせめて精神的に救ってくれるものは何か無いかと考えた。そして辿り着いたのは、心の中での独り漫才。目に見えるもの気付いた事にボケとツッコミを入れまくる。馬鹿馬鹿しいとお思いでしょうが、それくらいやらなければ耐えられない地獄なのだ。
先日は「食パン98」西船橋の駅前にあるスーパーの柱にデカデカと、白地の垂れ幕に赤の丸ゴシック体で「食パン98」と掛かっていた。咄嗟に意味を理解できず、ピンクレディーの「カルメン’77」と同じ類のモノかと思ってしまった自分に「なんでやねんっ」と右手を振って突っ込んだ。ちょっと冷静に考えれば、98の単位が「円」だってことくらい判る。食パンが98円で売ってるよ!と言いたいのだろうけど、もし今年が1998年だったらどうだろう。「食パン’98」なんて感じのフェアをやっていても不思議じゃないでしょ。ねえ? ねえ?
「そうか、今このスーパーでは食パンフェアを開催しているんだな。帰りに寄ってみよう。」などと考えちゃう人がいるかもしれない。もしかしたら今年が2002年だから間違いを起こさないで済む話なんじゃないか?絶対にそうだと確信する。もし98年であれば、「豚肉98」とか「焼き鳥98」、「大根98」でさえもフェア開催と勘違いするであろう。まったく、¥が付いてないだけでこんなにも人の心を惑わせるなんて、憎いぜ「食パン98」。そして、こんなツマランことで暫く考えを廻らす事ができる私もたいしたもんだ、まったく…などと独り悦に入っていると、「ええカゲンにせいっ!」私の右手が大きく動き、本日最初の演目の終わりを告げた。そしてまた、数分後に始まる次の舞台のネタを探しに私の両目は宙をさまよった。