江戸の京むすめ「第4回 東京にないモノ」

少し前の話になりますが、毎年の慣例として私はあるモノを買いに和菓子屋さんへ赴きました。

「すいません。“水無月”はありますか?」

初めて気付きました。関東には“水無月”がないんです。多分コレをご覧のみなさんも何のこっちゃ分からはりませんよね?

“水無月”とは外郎(ういろう)に小豆を乗せた和菓子です。

昔、京都では北山と言う所に沢山の氷室がありそこで保存された比叡山の氷は夏になると御所へと献上されました。貴族たちはそれを口に含み、京都の蒸し暑い夏をしのいでいました。また、『氷の節句』とも、一年の折り返しである『氷の朔日(ついたち)』とも呼ばれる旧暦の6月1日に氷室の氷を食べるとその年は夏痩せしない、と言われていた事から、庶民はその氷を真似て水無月を三角形に作り、その上には厄を払う為の小豆を乗せ(節分の豆と同じ役割です)、『無病息災の内に夏が越せますように』と願をかけていたのだそうです。

そして現在に至ってもその風習は根強く、旧暦の6月1日、太陽暦の6月30日が近くなると京都の和菓子屋さんには一斉に“水無月”が並び始めます。ウチの家でも毎年食べていました。

ウソ。水無月ってないんや・・。どないしよう・・。

そのお店から手ぶらで帰るのも申し訳なかったので、代用品としてお水菓子を少し頂きました。そして直ぐに実家へ電話。水無月がなかった事を報告すると母も驚愕していました。「そんなん、アンタ、今年夏風邪引いて肺炎とかになったらどないするの?」案の定、先日高熱でダウンしました。きっと水無月を食べへんかったせいです。

ところで父から聞いた話、江戸幕府が開かれ東京に御所(皇居)が移ってからは、幕府主体の世の中において、皇族や貴族彼らの生活慣習が浸透する事はなかったらしいのです。拠って氷の節句は京都止まりなんやと・・なるほどね。

もう一つ、京都(関西)にあって東京にない風習をご紹介します。

小豆のお話でちょこっと出て来た節分。その日に私たちは恵方(今年は南南西やとか北東北やとか、毎年発表があります。誰が決めてはるんやろ。)を向いて“太巻き”(お寿司)を食べます。包丁を入れると福との縁が切れてしまうので一本のまま丸かじり。福が逃げるので食べ終わるまで一言も口を聞いたらあきません。家族全員が同じ方角を向いて黙ったまま大口を開けて太巻きを食べる光景は少々奇妙かも知れませんが、結構ほのぼのしてていいもんですよ(笑)。また、節分に食べる太巻きの発祥に関しては、愛知説と京都説に分かれているらしいのですが、京都こそは日本文化の中心起源であると信じる京都贔屓の私は当然後者やと思います(笑)。

逆に関東にあって関西にないモノ。

この間おでんを作った時に初めて食べました!

ちくわぶ!

それまでちくわのブヨブヨしたモノやとばかり思ってたのに、相方曰く名称通りの“お麩”なんですね。お出汁で煮込めば煮込む程恐ろしい位に膨張して行く様を見て、半ば恐ろしくなりました。
おでんと言えばこっちでは“がんもどき”を入れますよね?でも京都では“ひろうす”です。漢字で書くと“飛竜頭(ひりょうず)”。“がんもどき”が雁の肉に似ていると言うように、“飛竜頭”はその形が飛んで行く竜の頭の形に似ていることからその名が付きました。

他にも名称が違うモノとしては、“かしわ”=鶏肉、“お造り”=お刺身、“ごまめ”=田作り、“糸こん”(糸こんにゃくの短縮形)=しらたき、“菊菜”=春菊、“ホルモン”=モツ、“おにぎり”=おむすび・・などなど。

次に、名前は同じでも中身が違うモノ。

おうどん。

京都の“たぬきうどん”は刻んだお揚げさんにくず餡(甘くないですよ、もちろんお醤油味です。)が掛かり、上にはおネギと生姜が少し乗ってあるのに対し、こちらのそれは天カスが振ってあるだけのシンプルなハイカラうどん。豆知識ですが、大阪で『たぬき』を頼むと強制的に“きつねそば”が出て来ます。つまり大阪のおうどん屋さんには“きつねそば”も“たぬきうどん”も存在せえへんのです。お揚げさんの入ったおそばはたぬきそば。おうどんやときつねうどん。ややこしいでしょ(笑)。

ひなあられ。
関西では1cmくらいのあられに色々な味や色を着けています。が、関東では米粒??小豆??

桜餅。
ウチらが“桜餅”と呼ぶのはもち米の粒がそのままの、云わばおはぎのような生地(?)であんこを包んであるモノ。関東では道明寺?

おぜんざい。
粒のあんこに白玉を浮かべたモノがおぜんざい。こしあんならおしるこ。関東では前後者ともおしるこ?

ざっと挙げただけでもこないにあるんです。
恐るべし500kmの距離。

私の言葉は東京で通用するんでしょうか!?

コレを読んでくれはった方の内、特にお商売を営んでおられる方。京言葉の抜けへんハイテンションなスッピンの女の子(そない言う年でもないですけど・・)が買い物に訪れて意味不明の名称を口走っても、どうか暖かく対処してやって下さい。

今し方ベランダに遊びに来たすずめと口論になったナミでした。
(だってお洗濯物に止まらはるんやもん。追い払おうとしたら逆ギレかいっ。失敬な(怒)。)

「“水無月”ってどんなお菓子?ウチでも作らなきゃダメだね。」と、親切に対応して下さった和菓子屋さんのおばさま。ついでに「京都の言葉はいいねぇ。」と褒めて下さいました。嬉しかった!今では何かと相談にも乗って頂いていて、失礼ながら私にとっては葛飾区のお母さん的存在です。おばさま愛してます♪

こちらのオススメはおばさまが持っていらっしゃる自家製あんこたっぷりぷりの羊羹です。私が頂いたのは家庭用の切り出しバージョン。形を残した小豆がポイントで、お茶だけでなく日本酒や白ワイン(サンセールとか?)を合わせたくなる、素敵な一品です。まいうー。

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甘味処 弥一樓(やいちろう)
青戸5丁目1-4 03-3690-5576
定休日 月曜日

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ナミ

東男の父と京女の母の元、途中まではお嬢様教育を施されたお転婆ワガママ一人っ娘。京都生まれの京都育ち、27歳。自称レストランサービスコーディネーター(自分で作った職業名)。 仕事=趣味の生き方が災いしてか、度重なる縁談にも縁がなく独身。イギリスではパブでライブを、フランスでは1つ星レストランで異次元な体験を・・そして帰国後に麻布十番から葛飾を経由して現在は江戸川のほとりで暮らしています。さてさて、ここでも素敵な出来事が目白押しの予感・・・。

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